方針や目的、コスト意識と最終目標がない仕事やプロジェクトはないはずである。
ウェブを公開した時点でそれはいくら実験中のつもりであっても、その時点で完成品なのであって、なんらかの方針や目標を持たずにスタートすると、個人の趣味のページや慈善事業でもない限り、後で損することにもなりかねない。
目的意識を持ったウェブにする為の重要点を上げておこう。
INDEX
1.1 ウェブマネージャの仕事
ここで言うウェブマネージャとは、ネットワークシステム管理者ではなく、むしろマーケティングマネージャ的な立場を指す。
ウェブマネージャは、ウェブの開設・メンテナンスコストの管理に始まり、アップデートスケジュールやトータルデザインの管理、ウェブ上でのプロモーションやリリース、その告知などのイベントの立案から実施・結果までのマネジメント、そして利用者やユーザの意見や反応を引き出し、製品・商品作りに反映させることである。
その意味では、これまでの従来型マーケティングマネージャの技能に加えて、ウェブの技術面の知識やウェブならではのマーケティングを考えられる技能が求められる。
1.1.1 継続的なWEB管理にかかる人材とコスト
ウェブに企業がかける人材やコストはまさにピンからキリまで様々である。人材にしても、1人で相当立派なサイトを運営している企業もあれば、5人10人を抱えるプロジェクトチームでも、方向性が定まらないサイトもある。これは、上記のウェブマネージメント能力を持っているかどうかにかかっている。
総じて人気のある個人のウェブサイトにおいては、金額に換算できない努力や深さがある。デザインは平凡、あるいははっきりいって飾りも素っ気もなくても、コンテンツの充実にユーザが集まってくるのである。
もちろん、企業において、自社製品・商品のターゲットユーザを集めるのと、個人の趣味のホームページに同好のネットサーファーを集めるのとは、明らかに提供するコンテンツやその為の努力の方向性は異なる。
極端な話、アダルトコンテンツを集めればいやというほどユーザが集まってくるが、それがターゲットに結びつかなければムダであるし、逆にコンテンツによって企業が評価判断されてしまう部分も大きい。
また、プレゼントなどで一時的にターゲットとなりうるユーザを釣っても、コンテンツやサービスの充実といったその後のフォローアップがなければユーザはすぐに離れてしまう。
もちろんアンケートであればそれなりに意味はあるだろうが、ターゲットを集めるという意味では、ワンストップではなく、再訪を促さなければ意味がないのである。この点で、一過性の広告やCMとは極端に異なるメディアなのである。
企業でアピールしたい内容やユーザ・ターゲットの規模に応じて人材やコストをかければよいのである。
これまで多かったホームページ制作会社は、どんな企業にも、業種・業態を調べずに1ページあたり何千円という形で見積もっていたが、そのようなホームページ制作はすでに過去のモノといえるだろう。
1.1.2 設置コスト試算とその回収方法
無料でオープンできるウェブサイトもないわけではない。しかし、それでは企業のサイトとしては信用できないと思われる。社内にサーバを置くにしろ、社外に頼むにしろ、信頼できるサイトを構築するのにお金はかかってくるものである。
費用対効果については詳しく述べないが、現実的な話として、ウェブ開設費用をどこから捻出するかが問題になる。
一般的なのは以下のいずれかになるだろう。
1.1.2.1
自社製品販売売り上げ経費
もし小売りなどオンラインでの製品販売による直接的な利益が上がることを見込んでいれば、その経費として計算できる。注意すべきなのは、オンラインのみの無店舗型ショップの場合はオンラインで売れる製品なのかを見極めること・既存流通でも同時に販売するような製品については、きちんと差別化されていて、ターゲットを食い合うのではなく新しく広がる方向へ向かうかどうかという点である。
1.1.2.2
全社的なコスト・広報費
会社案内程度なら総務などによる全般管理費などから捻出することになり、それほど費用対効果を求められないだろうが、継続的にネットビジネスに力を入れていこうとする場合に方向転換しづらい部分が不安に思われる。長期ビジョンをプレゼンテーションして、1年間は全般、その後は販促費から、といった説得をした方がよいだろう。
1.1.2.3
広告収入による運営
自社サイトが魅力的なコンテンツに彩られたポータル型のサイトで、リピーターも多く(なる予定で)、なおかつ自社と競合しないが利用者がターゲットの近い企業からのバナー広告を掲載することによって運営費をまかなう方法である。ただし利用料が高くなればそれだけ技術的なフォローも必要になる。(広告費用対効果のレポーティング等)
この場合、何よりコンテンツの充実や継続的な提供と更新が命ともいえる。運営にかける技術やコストに十分注意しなければならない。
1.1.2.4
会員制有料サイト
会員制にすることで、一定料金を徴収して商品・サービス・コンテンツを販売したりするという方法である。この場合には新規事業となるだろうから、コストはかかるものと納得できるが、後は本当にコストをペイでき、目標の利益を得るほどの会員が集まるのかどうかという点にかかっている。
不況下で相当魅力的なコンテンツでもない限り、商取引が非常に面倒な現段階では、個人向けの製品は扱い額が小さくなりがちで、信用取引がしにくい状況である。法人を対象となるだろう。
それでも、相当きちんとしたビジネスプランをたてないと、1年で見直さざるを得なくなり、コストの回収もできず、少ないメンバーからの信頼も失うことになるので慎重さが必要である。
1.1.3 ウェブデザイナーとカスタマーサポート人員の確保
ウェブマネージャの指示のもとで、効果的でマーケティングを理解しているウェブデザイナーと、従来同様に顧客の意見・反応をとりまとめるカスタマーサポートスタッフが効果的に動くことで、そのウェブを戦略的に使うことができるようになる。
ウェブマネージャ自身がホームページをデザインする必要はないが、例えば自身(あるいは家族・友人)をモニタとして、自宅からノートパソコンや28800bps程度のモデム(つまり低速だが一般的な環境)でアクセスして、果たして快適に見られるか、そして興味がわく内容か、必要な情報のあるページまで簡単に行きつけるかをチェックするべきだろう。会社の高速なマシン・専用線で見ている時のスピードや、大型のモニタの見やすさや内容は、必ずしも一般基準と同じとはいえないのである。
過度のデザインは往々にしてアピールしたい内容を隠し、Javaはロードに時間がかかり、動画やVRMLは止まってしまう場合もある。ペーパーやテレビのように、エンドユーザが必ずしも均等な条件で見られるものではないのがウェブであることに留意することが重要である。
もちろんウェブデザイナーには一般的なデザインセンスも求められる。しかも限られた色数や低い解像度を活かし、16進法で指定する背景の色と配置するグラフィックの色の対立や馴染み具合を調整するのは大変な作業である。
さすがに最近はフレームやテーブルを使えないブラウザは少ないものの、ShockwaveやFlashなどのプラグインがないと先に進まなかったり、大きなグラフィックのマッピングメニューだけでグラフィックを最後までダウンロードしないとどこにも行けないサイト、DHTML対応のブラウザでしか見栄えを考慮していないホームページを作るなら、テキストのみといったページも作るべきである。
また、ターゲットが高齢者・障害者・子供などの場合にも注意すべきポイント(文字の大きさや色の見やすさ)があるのは一般デザインと同様あるいはそれ以上の注意が必要である。(暗い背景上の暗い文字には普通の人でもいらいらする)
一般的な注意点はサイトデザインの項でも説明する。
1.1.4 プロジェクト管理は必須
すでに述べているように、ウェブは開設したらそれで終わりではない。1つの部署・1つのビジネスを作り出すように、プロジェクトとして展開していかなければ成功はありえない。ウェブに完成はなく、常にアップデートしていくことで存在意義を持つものである。かといって、「いいウェブサイト」を構築するのに何ヶ月もかけてはいられない(その間に環境はどんどん変わってしまう)し、最初から何千万も投資するには不安が大きいのも事実である。その点で、将来展開も含めたスケジューリング、及びプロジェクトマネジメントの技能も求められる。
企業活動の中での1つのプロジェクトとして、スタートする為に、プロジェクトの目標を明らかにし、進行計画とそのコストの試算を行わなければならない。ウェブで展開しようとしている目標・規模が大きくなればなるほど、事前の計画が明確に提示しないと、その責任や役割が曖昧になってしまうのである。
製品紹介のみというのであれば、現在の販促部門の予算から捻出するという小規模なスタートになるだろうが、それでも会社の役員にプレゼンテーションを行って全社にコンセンサスを得てスタートするべきである。
1.2 ターゲットの設定
商品でもサービスでも、それぞれがそれを提供したい標的=ターゲットを持っている。その範囲は製品ごとに様々で、ほとんどすべての人が利用するもの(例えば歯磨きなど)についても、直接の購買者は主婦となったり、あるいは一人暮らしの独身者となる場合がある。インターネットをマーケティングに利用する場合にも、当然ターゲットを明確にしないと、広告費をドブに捨てることになるのだから、ここを慎重に見極めることが大切である。
1.2.1 自社製品のターゲットをセグメント化せよ
すでにあなたの会社で販売している製品について、その購買層=ターゲットを明確に絞り込んでいるだろうか?これも商品やサービスによって、幅広い購買層を持つものもあれば、非常にニッチな層を対象としている製品もあるだろう。これはネットビジネス以前の問題であり、「いいものは売れる」のではない状況、ほとんどが競合を持ち、他社製品と遜色がない状況であれば、頼るのはマーケティング戦略ということになる。
あくまでも製品力(機能・デザイン)で勝負できるのか、低価格・コストパフォーマンスで訴求するのか、ブランド力で訴求するのか、あるいは広告のイメージ戦略、顧客満足度を高める戦略など、既存のマーケティングをどこまで行っており、どんな戦略を採っているかを、明確に把握しておくことが前提となる。
もちろんインターネット上でも、新聞雑誌・テレビラジオといった既存メディアでとっている戦略と同じ展開をすればいい場合もある。しかし、それに縛られることなく、ネット上のみに限定した戦略、ネットならではの戦略というのもある。その前提として、現状のユーザ分析や新製品の投入市場のセグメント化を明確化しておかなければならない。
1.2.2 ネットユーザの属性調査
1000万を越えるといわれるインターネットユーザではあるものの、まだ米国の半数以下といわれる比較的狭いユーザ層であり、前提としてパソコン利用者、比較的高い所得層、まだ男性の比率が高いというものの、女性が年々増えているといった情報は、すでに各社のインターネット利用者を対象としたアンケート調査などで調べることができる。
ただし、調査内容によって調査対象が微妙に異なるし、景品に釣られての調査もあるので、そのあたりのバイアスを把握しつつ、1つの調査資料に頼るのではなく、それらを統合した上で把握しないと、現状では属性を十分絞り込めないかもしれない。
調査実施企業(サイト)も様々なので、調査対象募集方法やフェース項目にも注意すべきである。日経のアンケートと女性を中心としたアンケートでは相当異なる場合もある。同じような設問でも、対象者や前後の質問の設定の仕方でずいぶん結果が変わるものである。これについては、自社内でアンケートを採る際に注意すべきポイントともなる。
1.2.3 ネットユーザ内のターゲット含有率
上記の2点を調べておき、それを前提として自社製品のターゲットとなる利用者のうち、インターネット利用者はどの程度含まれるかを分析しなければならない。
同じ女性をターゲットとした高額なブランド製品でも、中高年層向きであればインターネット利用者層内にはまだ低いかもしれないし、衣類はサイズや質感などをネットで伝えにくい。
しかし、パソコンを自宅で利用するような所得レベルの高めのOLに人気のブランド品で、バッグやアクセサリなどなら、価格などの差別化を図ることでターゲットとして有望かもしれない。もちろんこれは単純な例で、パソコンを自宅で利用するOLはブランド品に興味がない人が多いという調査があればこれも変わってくる。
上記のネットユーザのアンケートの多くは一般的な内容しか聞かれていないものがほとんどなので、自社オリジナルの調査をインターネット上で行うことも可能である。インターネット上でアンケート調査を実施してくれる企業も多いので、余裕があればそれを利用しない手はない。
しかし、先にも述べた通り、アンケートを行う場所(サイト)やその告知方法などについても厳選しないと、その時点で的はずれな調査になってしまう可能性もあるので注意していただきたい。自社でホームページを持っていて、そこに来る利用者だけにアンケートを採るのでは、顧客(候補)に対する意識調査や満足度調査となってしまうので、通常のアンケート調査同様、実施企業名は伏せて行う=広く一般に知られているサイトでの匿名調査タイプにすべきであろう。
逆に、もし自社のサイトを持っていて、そこそこのアクセス数(例えば1日100件以上)があるようであれば、そのビジターたちへのアンケートは別の意図で行う意味はある。
何を見て、どういう経路で、何を求めてこのサイトにたどり着いたのかを調べることで、今後ウェブ展開を広げる為の基礎情報になるのである。
1.2.4 ネットマーケットならではの特徴付け
従来のマーケティングにおいては、その多くがマスを対象としたものにならざるをえなかった。もちろん新聞や雑誌などは購読者層によって絞り込むことができるが、広告を必ず見る読者数や、広告で製品を探す読者がどの程度いるのかという部分が重要で、雑誌のメディアデータなどを見て判断することになる。日本では特に広告と記事のバーター的・連動的な場合も多く、記事で取り上げてもらうために広告を出すという風潮もある。もっと知ってもらう・幅広く知ってもらう必要がある場合のサポート手段として広告資料請求のような形で展開してきた。
これに対してインターネットにおいては、バナー広告をはじめとする販促・広告はあるものの、認知度アップ型(テレビCF型)のバナーは少なく、むしろ「詳しくは弊社のウェブサイトへ」という誘導型の広告がほとんどである。
バナー広告以外では、能動的に何か(おもしろいもの・製品スペック・役立つ情報・賞品景品など)を探しているターゲットユーザを、何とかして自社サイトへ導かなければならない。
ここに来ればあなたの欲しい情報がある、再度来ればさらに何かもらえるかもしれない、という形で、サーファーやシーカー、リピーターを確保しなければ何も始まらないのである。
1.2.5 アナログマーケットとの連動
先に従来のアナログマーケティングとの違いを簡単に述べたが、だからといって、ウェブはウェブ、雑誌広告は雑誌広告と、別物のように扱うべきではない。それぞれの特性を活かして、それぞれに欠ける点を補完しあうように連動させる必要がある。
一番単純なのは、ホームページのアドレスを広告に載せることで、雑誌ではイメージ・ブランドを強調し、ウェブではより詳細な情報を提供するという方法である。
その意味では、ウェブマネージャがマーケティングマネージャを兼務したり、マーケティング部内に雑誌担当がいるようにウェブ担当者を置いたり、あるいはウェブデザイナーやネット管理者との連携を密にすべきである。
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